2018
10/15
第14話:情シス/IT部門にとってRPAがハンマーになっていないでしょうか?
- コラム
- 情シス論
執筆者
情シスコンサルタント
田村 昇平
RPAコンサルの自信満々の提案
「RPAを導入することで、毎月XX人月を削減でき、年間XXX万円のコストを削減できます!」
とある情シス部長の依頼で、RPAベンダーの提案に同席させていただきました。
RPAコンサルは、綺麗な数字とグラフで自信満々に説明されています。
このベンダーを連れてきた情シスメンバーも、この場で承認を取りたい様子。疑いようのない効果に、もう部長から「OK」をもらうだけ…の雰囲気でした。
田村はたまらず「一度持ち帰って検討しましょう」
とその場を強制終了しました。
手に持っているものがハンマーなら全て釘に見える
RPAは流行っています。どこの現場に行っても、RPAの導入検討が行われています。
RPAはとても優れた商品です。かゆい所に手が届きます。田村も昔、マクロを大量に作っていたので、自動化ツールの恩恵は十分に理解しているつもりです。
ただ、強烈な副作用があります。何でしょうか?
「臭いものに蓋をする」です。
例えば、RPAの得意技の1つに「転記」があります。
エクセルからシステムへの転記、システムからシステムへの転記、これらはRPAで自動化することができます。これにより、人間がやるよりも「早く、正確に、大量に」処理してくれます。
しかし、RPAの前提でいくと、「転記」そのものをなくす発想に繋がりません。
元凶のエクセルをなくす、転記自体をなくす、中間処理をなくす、マスターで一元管理する、イレギュラーを根絶する、など根本的・合理的な見直しをする機会が奪われます。
RPAのベンダーにとってみれば、転記などの中間処理は格好の獲物であり、残しておきたいのです。現場の非効率な作業を「現場の苦労を分かった風」に肯定し、誘導してきます。全体最適化され、業務フローがシンプルになると、仕事がなくなるからです。
情シスも「RPA導入ありき」で考えると危険です。
手に持っているものが「ハンマー」なら、飛び出ている物は全て「釘」に見えます。同様に、手に持っているものが「RPA」なら、現場の煩雑な作業は全て「適用対象」に見えてしまいます。
全体最適化をせずにRPAを入れると、複雑化した現場業務をそのままRPAで「固定化」してしまうということです。そこら中に「ブラックボックス」が公認された形で増殖されていきます。
RPAは部分最適化の道具であり、全体最適化の道具ではありません。RPAを検討するタイミングは、全体最適化が終わった後の「補助ツール」として検討するべきです。
情シスだからこそのRPAの扱い方
冒頭の現場は、あらためて業務プロセスを見直した結果、RPAは見送りとなりました。
<見直し結果>
- エクセル台帳を廃止し、システムのマスターで一元管理
- システム間の転記入力をやめて、システム連携で自動化
- 過剰サービスをやめて、顧客に自社フォーマットへの入力をルール化
ベンダーを連れてきた情シスメンバーも最初は落ち込んでいましたが、すぐに切り替わりました。
業務改革の面白さに触れて、業務部門からの感謝が増えたからです。
「情シスでこれをやりたかったんです」と嬉しそうにお話しされていました。
情シスは、IT導入が役割なので、RPAを否定されると自身の存在を否定されたと感じるかもしれません。
でも違います。
情シスだからこそ、他の選択肢を幅広く提供できるのです。
小手先の「改善」よりも根本的な「改革」の方が、業務部門にも経営層にも喜ばれます。
改善はベンダーにもできますが、改革は情シスにしかできません。
貴社の情シスは、RPAをハンマーのように握ってはいないでしょうか?
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執筆者プロフィール
情シスコンサルタント 田村 昇平
IT部門の育成・強化を専門とするコンサルタント。
ITプロジェクトの企画から導入・保守までの全工程に精通し、そのノウハウを著書「システム発注から導入までを成功させる90の鉄則」(技術評論社)で公開している。
>>著書の詳細は、こちらをご覧ください。