2018
6/26
第3話:業務部門からIT部門/情シスに異動してきた社員は戦力になるか?
- コラム
- 情シス論
執筆者
情シスコンサルタント
田村 昇平
最初は誰もが不安になる
「ここでやっていける自信がなくなりました」
業務部門からIT部門に異動してきたばかりのAさんの言葉です。Aさんはとても勤勉で、新しいスキルを習得したいと自ら希望して全く未経験のIT部門に入ってきました。
ところが、週1回のIT部会に出席し、他の方の発言が全く理解できません。周囲が盛り上がってもついていけず、一人だけ蚊帳の外です。配られる資料を見ても、知らない単語のオンパレードで、図解を見てもさっぱり分かりません。そして冒頭の相談を受けました。
「大丈夫ですよ!Aさんなら私は全く心配していません」
と田村は即答しました。
業務出身者の業務目線が重要
IT部門に必要なスキルは、担当する領域により大きく2つに分かれます。
① システムインフラ:IT知識が必要
② 業務システム:業務知識が必要
「システムインフラ」とは、自社のシステム基盤に関わる物理的および論理的な構成を管理する領域です。サーバー、PC、ストレージなどのハードウェア、ネットワーク、セキュリティなどのIT知識が必要となります。
「業務システム」とは、自社の各業務で使用されるシステムを開発・運用・保守する領域です。業務と密接に絡んでおり、業務プロセスを自動化したものが業務システムとなります。
業務部門の出身者は、当然ながら「業務システム」との相性が良いといえます。自身の業務知識を活用し、即戦力で活躍する人が多くいらっしゃいます。
では、経験してきた業務とはまったく異なる領域の業務システムでも戦力になるのでしょうか?
それでも、大きな戦力になります。
なぜなら、視点が「業務目線」だからです。現場の要求を業務目線で把握し、言語化することができます。ユーザーテストにおいても、業務目線で検証することができます。
業務システムを開発するITベンダーは「システム目線」しか持てないので、「業務目線」をもったメンバーはとても重宝されます。
一方で、業務出身者にも弱点はあります。
やはり、IT知識が圧倒的に不足しています。それは、ITベンダーとのコミュニケーションにおいて「主導権を奪われやすい」ということです。技術的な話になると思考停止に陥り、ベンダーの言いなりになってしまったり、ベンダーを放置してしまったりして、後手に回ってしまいます。
そこで慣れるまでは、業務出身者はIT出身者とペアを組むことが効果的です。
要件定義では、エンドユーザーへのヒアリングを業務出身者が行い、ベンダーとの調整をIT出身者が行います。ユーザー受入テストの際も、業務出身者が業務観点でテストを行い、IT出身者がベンダーとバグ対応の調整をしていきます。
ベンダー調整は、「慣れ」の部分が大きいのです。一度、他の人がやっている要領を横で学ぶことで、次からは一人でできるようになります。ベンダーとの調整に「ITスキルがそこまで必要ない」ということが分かれば、ベンダーに対して堂々と業務要求を出せるようになります。
業務出身者はIT部門/情シスで即戦力になれる
冒頭のAさんは、その後、大活躍します。
田村は、Aさんに「ベンダーとの接し方」「テストの要領」「各種資料の作り方」「ファシリテーションの要領」などのノウハウを提供しただけです。もともと勤勉なAさんはすぐに要領を得て、単独で動けるようになりました。
何よりも、IT出身者が最も苦手とする「業務の調整」をできることが非常に重宝されます。要件定義ではリーダーシップを発揮し、部門間調整も積極的に行いました。ユーザーテストでも、シナリオテストを主導し、ベンダーとの認識ギャップを埋めていきました。
IT部門にとって、「ITスキル+業務知識」の人材を育てることは、永遠のテーマです。IT出身者に業務を覚えさせるか、業務出身者にITを覚えさせるか、昔からある議論ですが、どちらも可能だと考えます。
ただし、対象業務がより複雑になればなるほど、業務出身者にITを覚えさせる方が圧倒的に早いといえます。なぜなら、IT部門は「ITの深い知識とスキル」よりも「業務要件の整理」や「社内調整のリーダーシップ」が求められるからです。
御社のIT人材育成計画は、社内ローテーションを有効活用していますでしょうか?
コラム更新情報をメールでお知らせします。
執筆者プロフィール
情シスコンサルタント 田村 昇平
IT部門の育成・強化を専門とするコンサルタント。
ITプロジェクトの企画から導入・保守までの全工程に精通し、そのノウハウを著書「システム発注から導入までを成功させる90の鉄則」(技術評論社)で公開している。
>>著書の詳細は、こちらをご覧ください。