2020
1/21
第33話:なぜそのRFPはベンダー見積もりが10億円を超えてしまうのか?
- RFP/RFI
- コラム
執筆者
情シスコンサルタント
田村 昇平
ベンダーの提案を受けて手詰まりになる
「5億円以下で提案してくれるベンダーを紹介してほしい」
ある情シス部長から相談がありました。
その企業では、自社でRFPを作成し、ベンダー5社に提案を依頼しました。ベンダーから回答があり、5社とも10億円を超えていたそうです。
そんな予算はなく、ベンダーを再度リストアップしているとのことでしたが、お困りの様子。
そこでRFPの資料一式を見せてもらうことにしました。
RFPをパラパラめくると、すぐに引っかかる部分がありました。
RFPがベンダーを決めてしまう
そのRFPを拝見すると、「営業支援」「販売管理」「会計」と基幹システムの「全て」がスコープとなっていました。
思わず「コレ全部ですか?」と聞いてしまいました。
RFPのスコープが広すぎると、ユーザー企業側のリスクが一気に広がります。
では、どのようなリスクが発生するのでしょうか?
スコープが広すぎると、ベンダー側の「プロジェクトマネジメントコスト」「大規模体制を維持するコスト」「リスクに対するバッファコスト」等が上積みされ、システム以外のコストが異常に跳ね上がる。
(2) ベンダーが見つからなくなるリスク
スコープの全てをカバーする「パッケージ」や「ソリューション」をもった超大手やERPベンダーしか提案できなくなる。少数精鋭の中小ベンダーは、大規模な体制を組めずに辞退してしまう。
(3) 自社内で受け入れ体制が不十分となるリスク
業務の全領域で「データ移行」と「受け入れテスト」が発生し、ユーザー側で十分な体制が組めなくなる。情シス・IT部門の支援も分散し、回らなくなる。
(4) プロジェクトマネジメントの難易度が高くなるリスク
ユーザー側でも壮大なWBSを作成し、タスクの進捗管理だけで忙殺される。課題は頻発し、対応しきれなくなる。
(5) 受け入れテストで原因調査に時間がかかり、延伸するリスク
最後の会計で数字が合わない場合、どこが原因なのか、特定に時間がかかる。調査対象が全業務に及び、その調査の裏で別の障害が多発し、さばききれなくなる。
というわけで、RFPのスコープを広げすぎると、ユーザー企業にとっては、リスクも大きくなります。
スコープをある程度小さく切り出すことで、そこに強みをもった中小のパッケージベンダーも提案の土俵に上がることができます。
すると、価格もバリエーションが出てきて、予算に応じた選択も可能になります。
自社でも、余裕をもった「データ移行」と「受け入れテスト」が行えます。
RFPのスコープが広いこと自体は悪いことではありませんが、リスクをあらかじめ許容しているかが重要です。「予算に余裕がない」「自社の人的リソースが不足している」「外資系のようにドラスティックな改革が難しい」などのリスク要因があるなら、段階的に確実な導入を計画するべきです。
その計画を主導するのが、情報システム部門・IT部門の重要な役割ということです。
RFP修正でプロジェクトを立て直す
冒頭の企業は、RFPを見直しました。
現行の「会計」は、あるパッケージを使っており、そこまで大きな問題を抱えていませんでした。いわば「見直すならついでに」という勢いで、スコープに含まれていました。
そこで、「会計」をスコープから外し、継続使用する方針にしました。
同じく、「営業支援」は、そもそもの要求が整理できておらず、投資効果が不明確でした。いったんスコープから外し、次のフェーズで導入計画を立てることになりました。
その結果、スコープは「販売管理」のみとなります。
すると、選択肢が広がり、今まで検討したことのなかったベンダーが多く浮上しました。しかも、その業種に特化した魅力的な選択肢ばかりです。
ベンダーの再提案を受け、「パッケージ+カスタマイズ」で、3億円弱の提案を採用しました。予算内で十分に対応できます。
現在、順調に受け入れテストを行っています。
貴社のRFPは、適切なスコープになっていますでしょうか?そのRFPは、情報システム部門・IT部門が適切に誘導できていますでしょうか?
関連コラム
コラム更新情報をメールでお知らせします。
執筆者プロフィール
情シスコンサルタント 田村 昇平
IT部門の育成・強化を専門とするコンサルタント。
ITプロジェクトの企画から導入・保守までの全工程に精通し、そのノウハウを著書「システム発注から導入までを成功させる90の鉄則」(技術評論社)で公開している。
>>著書の詳細は、こちらをご覧ください。