2019
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第19話:情シス/IT部門の役割を再設計できないと下請け部門になる?
- コラム
- 情シス論
執筆者
情シスコンサルタント
田村 昇平
大企業に共通するIT部門の深い悩み
「200を超えるシステムを管理しました」
田村は過去に、大手生命保険企業のお手伝いをしました。そこは200を超えるシステムが存在し、台帳の整備と管理にとても苦労しました。
以前、セミナーでこの話をした際、メガバンクの経営層の方から
「ウチはその倍はあるよ」
と言われ、さらにびっくりしたことを覚えています。
このように、大企業ほど導入しているシステムの数は多くなります。上を見るとキリがありませんが、大企業になればなるほど、事業領域が広くなり、多様なシステムが導入されています。
そんな大企業にとって、一番の負担は何でしょうか?
その膨大な数のシステムの「運用・保守」です。
システムは「導入して終わり」ではなく、その後が大変なのです。この「運用・保守」がIT部門の成長・発展を阻害する重い足かせとなってしまいます。
運用・保守を見直す
例えば、100のシステムを「運用・保守」することを想像してみましょう。
業務は絶えず変化するため、それに合わせてシステムの機能を改修する必要があります。業務担当者と要件を整理し、ベンダー調整・設計・テスト・業務マニュアル変更、ユーザー教育などの対応に追われます。
これだけでも大変ですが、最も労力を奪われるのが「問い合わせ・クレーム対応」です。
ITインフラやシステムは、現場から見れば「動いて当たり前」です。少しでも障害などで止まってしまうと、その怒りはIT部門に向けられます。障害対応やクレーム対応、問い合わせ対応は「即時性」が求められ、対応が遅れるごとにIT部門の評価は下がっていきます。非常に損な役回りです。
そのようなシステムが100あるということは、この対応が100倍になります。想像しただけで気が遠くなります。
心身ともに疲れ切ったIT部門は、積極的に新しいことを提案するはずがありません。土日に休日出勤しても追いつかなくなるため、極力仕事を減らそうとします。IT部門は依頼を断り続け、さらに評価を落としていくことになります。田村はこれを「IT部門の悪循環フロー」と呼んでいます。
一方で最近、「攻めのIT」という言葉が流行っています。特に経営層にとっては、関心の高いキーワードです。
仮にIT部門に30人いる場合、「攻めのIT」に10人は割り当てたいと考えます。余力がある企業なら、10名を外から採用することができます。しかし現実的には、現有体制の30人の中から、10名を割り当てることを考えるのではないでしょうか。
つまり、超多忙な運用・保守から、10名分の工数を捻出する必要があるわけです。運用・保守の関係者からは「現場を知らないから言えること」と怒られそうです。それでも、時代に合わせてIT部門にも「変化」を求められています。「変化」に対応できないIT部門はジリ貧となり、社内でも立場がどんどん追いやられていきます。
そうならないために、まずは運用・保守の「徹底した効率化」が必要となります。そこで生み出した余力を「付加価値の高い役割」に計画的にシフトしていくのです。
経営戦略として「デジタル戦略」を実行する。そのために、基盤となるIT部門の「再設計」を行います。経営層やCIOがトップダウンでメッセージを発して、企業全体の取り組みとして実行していく必要があります。
実際に、そのような企業は、IT部門が中心プレイヤーとして全社を横断し、活躍の場をさらに広げています。
IT部門にもチャレンジが求められている
田村もベンダー時代に10年近く、運用・保守を担当してきました。そのため、その役割の重要性は身に染みていますし、軽視することは絶対にありません。
しかし、その運用・保守が大変だからと、他をやらない理由にはなりません。現状にあぐらをかいて、他にチャレンジするリスクをとらないIT部門は、社内で「下請け部門」に成り下がります。
IT技術が加速度的に進歩している現在は、その流れがより顕著になっていると感じます。時代に合わせて、IT部門の役割を「再設計」する必要があります。
貴社のIT部門は、役割を再設計し、「チャレンジ」していますでしょうか?
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執筆者プロフィール
情シスコンサルタント 田村 昇平
IT部門の育成・強化を専門とするコンサルタント。
ITプロジェクトの企画から導入・保守までの全工程に精通し、そのノウハウを著書「システム発注から導入までを成功させる90の鉄則」(技術評論社)で公開している。
>>著書の詳細は、こちらをご覧ください。